Q & A QUESTION & ANSWER
女子美術大学
ヒーリング表現領域について、
受験生からよく出される質問事項にお答えします。

Q1.入試実技に関する質問

質 問
入学試験の実技問題は、モチーフの観察表現とイメージ表現を合わせた鉛筆描写が出されますが、どういった理由でこの二つの内容を求めるのでしょうか?

回 答
ヒーリング表現領域に入学するに当たって、表現の基礎力として特に必要なのは、観察描写表現力とイメージ表現力です。入学試験に鉛筆デッサン(イメージ表現)を出題しているのもその為です。
ものをよく見ること。ものの特徴を捉えること。形の美しさを感じ取ること。空間のバランスを感じ取ること。そしてそこから独自の世界を表現する手がかりを見つけ、イメージを広げていく力がヒーリング表現領域の授業では大切な要素になります。
こうしたことを意識しながら対象を表現することで、普段見慣れているものの中に潜む、様々な素晴らしい要素を発見し、感じる。そこから得られた感性は、入学してから本格的に学んでいく実技授業で、キャラクターデザインを考えるとき、絵本を創作するとき、壁画を描くとき、おもちゃをデザインするとき、ぬいぐるみの制作をするとき、空間をデザインして演出するときに必ず役に立ってきます。そして沢山の物を描くことで、好きなモチーフにきっと出会えるはずです。ある日モチーフの方から話しかけてくる気がするようになるものです。そういった物を一つでも見つけ、さらに自分の独自の世界を作り上げることが、ヒーリング表現ではとても大切だと考えます。
どの授業でも必ず観察に基づく表現力は制作の前提条件となるので、しっかりとものを見る習慣、そしてオリジナリティーのある世界を創造する習慣を身につけてほしいですね。

Q2.都心で学ぶ魅力について

質 問
都心で学べる魅力をAD表現学科の特徴に挙げていますが、具体的にどういった利点があるのでしょうか?

回 答
東京の都心には、様々なアートやデザインの生きた情報が溢れています。AD表現学科のある杉並校舎は、電車に乗って、新宿まで10分、渋谷、銀座、六本木、原宿、表参道などにも30分位で行ける場所にあります。授業で展覧会を見学したり、自分で授業の空き時間や、学校の帰り、休日を旨く利用して、ギャラリー見学、タウンウォッチング、マーケティングリサーチなどを心がけることで、アートやデザインの最新情報の収集や、優れた芸術作品、世界各国のデザイナーの仕事を実際に自分の眼で見る機会が沢山得られます。
「百聞は一見にしかず」! どんどん行動する事で、感性を豊かにしていってください。
また、AD表現学科では、都内の企業とのコラボレーションによる体験型授業を積極的に進めていきますが、その場合にも、都心にキャンパスがあるのは強みですね。

Q3.個人制作と共同制作について

質 問
大学案内などで紹介されている授業風景は共同制作が多い様に感じますが、ヒーリング表現の授業は共同制作がメインなのでしょうか。個人制作は無いのでしょうか?

回 答
個人制作、共同制作、どちらもヒーリング表現領域では大切だと考えています。授業内容、目的に応じて、個人制作の授業とグループ制作の授業それぞれがありますので、様々な状況に応じて幅広く表現する事の意味を考え、実践的に学んで行く事が出来ます。
○個人制作に重点を置いた授業
絵本創作、CG表現、ぬいぐるみ制作、玩具のデザインなどは、個人制作に重点を置いて、独自の表現、個性の追求、アイデアの追求、デザインセンスの追求を重んじていきます。
○グループワークやプロジェクトタイプの授業
ヒーリング・アートプロジェクト、ユニバーサルアート、プロジェクト&コラボレーション、壁画制作、ワークショップ演習などは、チーム編成してアイデアを出し合い、皆で話し合って問題解決の方法を探り、新たな提案をしていく授業、作品を共同制作でつくる授業です。

Q4.ヒーリングの表現は優しいものばかり?

質 問
大学案内などで紹介されているヒーリング表現領域の作品は、淡い色調だったり、優しいイメージのものが多い様に思います。ヒーリング表現領域ではこういった雰囲気の表現だけを追求するのでしょうか?

回 答
2010年にヒーリング表現領域を開設するに当たって、そのベースには1992年から20年に渡って継続して来たヒーリング・アートプロジェクトがあります。ヒーリング(癒し)を目的としたアートを病院や介護施設の空間に設置することで、利用者の心が安らぐ環境作りに役立てたいという趣旨のプロジェクトです。これまでに30箇所以上の施設で実施してきました。現場のスタッフと打合せをしながら環境を考え、その空間をアートによってどう演出して利用者の気持ちが和らぐ効果(ヒーリング効果)を作り出せるかという点を検討してのアート制作が基本になっていたので、優しい表現が結果的には多くなっています。
ヒーリング表現領域は、4年間の教育の中で、こうしたこれまでのプロジェクトよりも更に幅広く、そして深く「ヒーリング」について考え、社会の必要性に応じて新しい表現の追及と社会還元化をめざし、作品制作と理論研究を進めていくために開設しました。
「ヒーリング」の意味を広く捉えると、「心が安らぐ」、「穏やかな気持ちになる」、「楽しい気持ちになる」、「晴々とする」、「気持ちが落ち着く」、「元気が出る」、「ワクワクする」などいろいろと考えられます。学んで行く学生が、自分自身で「ヒーリング」の意味を考え、目的を持って表現していくことで、皆それぞれに違った表現が生まれてくると思います。これ迄の事例にとらわれず、自分で新たなヒーリング表現の可能性を追求して行く事が大切です。

Q5.ヒーリング・アートプロジェクトについて

質 問
ヒーリング・アートプロジェクトの活動について詳しく教えてください。

回 答
ヒーリング・アートプロジェクトは、美大におけるサービス・ラーニング(大学で学ぶ専門性を活かしながら、ボランティア活動を通じた社会との連携により社会の現状を知り、またその解決方法を探ることで社会貢献に役立てていくことを目的とした学習活動)の一環として実施しているプロジェクトです。社会的な目的を持った作品制作を通して、医療・福祉施設等の公共空間における癒しについて考え、アートの社会との関わりや必要性を探ることを目的に実践しています。そこでは、ヒーリング表現とは何かを学生自身が考えながら制作をすることで、自己の可能性を広げると共に、社会性のある新たな発見の機会を得る学習活動をめざしています。
ヒーリング・アートプロジェクトは、次のような流れで進行しています。
医療・福祉施設等からの依頼→参加者募集→学内説明会→施設現場の視察・見学→プランニング(共同制作)→原画制作(共同制作)→依頼主へのプレゼンテーション→作品制作(共同制作)→作品設置 →作品設置に対するアンケート等の調査→外部評価の検証
このような、総合病院、介護老人保健施設、その他の公共空間を対象としたヒーリング・アートプロジェクトの継続的な実施から、アートの持つ社会貢献の役割を探り、共同制作による創作表現の可能性と意味を学生自身が考える機会を設けています。
また、こうした全学的に行うプロジェクト以外に、ヒーリング表現領域の授業として独自に実施するプロジェクトもあります。
ヒーリング・アートプロジェクトの取組みは下記サイトに詳しく掲載していますのでご覧ください。
http://www.joshibi.net/healing/index.html

Q6.ヒーリング・アートプロジェクトの病院以外での実施場所について

質 問
ヒーリング・アートプロジェクトは、病院以外では、どんなところで実施していますか?

回 答
ヒーリング・アートプロジェクトは、病院からの依頼が多いのですが、それ以外でも、介護老人保健施設、幼稚園、児童館、地下鉄の駅ホームの壁面、ビルの建設工事現場の仮囲い壁面、他大学の校舎内の空間など、幅広く公共施設の空間で実施してきました。今、多くの公共の場所でヒーリングが求められる様になってきています。そうした要望に応えられるよう、試行錯誤を繰り返し、現代社会が求めるヒーリングとは何かを問い続けながら、プロジェクトを進めています。

Q7.卒業後の進路について

質 問
ヒーリング表現領域は、国内でも他にない領域ですが、卒業後の進路、就職等はどういった可能性があるのでしょうか?

回 答
癒しを目的とした芸術は、現代のストレス社会において、その役割が重視されるようになってきました。日常生活における様々なストレスの要因が潜む現代社会では、癒しを提供する存在が強く求められてきており、今後その必要性は更に高まっていきます。
こうした現代の社会生活の中で、人と人とのコミュニケーション文化として、「ヒーリング」をテーマにしたアートとデザインの役割は大きくなると考えます。そうした社会の流れに対して、ヒーリングということを各自がしっかりと理解し、得意な表現を活かして質の高い作品作りができる人材と、様々な社会の現場においてヒーリング・アートの提案が出来る企画力とチームワーク能力を持った人材の社会への進出をはかっていきます。
グラフィックデザイナー、キャラクターデザイナー、絵本作家、イラストレーター、CGデザイナー、玩具デザイナー、空間デザイナー、ディスプレイデザイナー、壁画制作のアーティスト、医療・福祉空間でのアートコーディネイターなどのデザイナー、クリエーターや美術教員等を育成しています。(卒業後の進路をご参照ください)

Q8.ヒーリング・アートとアートセラピーの違い

質 問
ヒーリング・アートとアートセラピーはどう違うのですか?

回 答
ヒーリング・アート=アートセラピーと解釈して、同義語として使われているケースがあるようですが、ヒーリング・アートとアートセラピーでは、実際はそれぞれの機能、目的、役割が異なります。
ヒーリング・アート(Healing Art)とは、「爽やかな気分になって、心が落ち着くことを目的としたり、沈んだ気持ちに対して、元気づけのきっかけとなる芸術」を意味します。それは、絵画、彫刻、デザイン、オブジェ、映像、インタラクティブ・アート、音楽など様々な芸術分野での表現手段が考えられます。
一方、アートセラピー(art therapy)は芸術療法と訳されるように、芸術による療法・治療(therapy)であり、絵画、音楽、演劇、ダンスなどのプログラムに、患者自身が個人またはグループで参加して、芸術表現を通して精神的な療法、治療をおこなうことを主な目的としたものです。つまり、アートセラピーは、芸術の表現行為そのものが重要な要素となり、それが療法の一環として行われるものなのです。
これに対して、ヒーリング・アートは、環境芸術としての役割を果たす目的で制作することが多く、建築プラン、インテリア・コーディネイトなどとも関わりながら、環境計画の一部としてのアートの立場を考え、空間をどう演出して利用者の気持ちが和らぐ効果(ヒーリング効果)を作り出せるかという点を検討し、アートを設置するということが基本になります。こうした際、現場の状況に応じた癒される空間作りという目的を持って、それに適応したアートの制作と設置を検討するのです。したがって利用者という不特定多数の人間にとって、その空間がどうあるべきかを考えてアメニティー(amenity:快適性)を高めるためのアートを制作するという点が重要です。ヒーリング・アートとアートセラピーでは、異なった特色と役割があるのです。