大学院生作品 GRADUATE STUDENT WORKS
気づき−墨と炭を用いた、新しい美術・図画工作教育カリキュラムの提案−
水越万紀子
体験して発見する、気づき、本物に触れる。
作品 人間は本来、探究心や向上心を持っていて、生活する上で、歴史上、様々な道具などを発明してきた。モノを造るという人間の行為は、新しい発見や想像力を働かせ生み出し、達成感を得て喜び、次のモノを生み出そうという気持ちになる自然なものである。よって、モノを造る原点は、「気づき・想像力・達成感」である。溢れ出るメディアや情報の波に流されていく今日、子ども達はバーチャルの世界に入り込み、本物に触れる機会が極端に少ない。ここでは、体験して発見し気づくこと、本物に触れることの二つを大きなテーマとし、墨と炭を使った美術・図画工作教育カリキュラムを提案する。素材の安全性から画材には自然素材である炭と墨を使用する。元々、同じ木材であり、墨と炭は「スミ」という同音であるが、製造過程や用途によって全く異なるものとして存在している。墨で書かれた木簡は1300年以上経った今も現存し、炭も長期に渡り不変しないという、日本の歴史の上でとても古くから関わりのあるものである。
画仙紙という一枚の紙上に、墨と炭とを混在させる。
墨汁と水、そして水と相性の良い画仙紙を用い、偶然現れる「滲み」という模様。粉炭を天然接着剤である膠で固定させることにより見えてくる、本来の黒色。粉炭と木蝋を湯煎で溶かすことでできた「炭クレヨン」という新たな画材。
画仙紙の上で「白」と墨の「黒」から見えてくる「階調」という色彩。
作品 小学校6年生と制作活動を行った。自分より大きな紙と、初めて持つ刷毛。画材は全て黒色。「墨汁=習字」という概念から外れ、身体で墨汁と戯れる。滲みから現れる模様、粉炭の手触りと膠に驚き、「真の黒」を目の前に、子どもたちは、白と黒だけの世界を造りあげていった。

子ども達が造った作品は、不変性という画材の特性上、永く永く、美しく残ることであろう。日本古来からの文化や歴史を伝えてきた墨、人間の生き方を変えた炭、それらが今後は美術・図画工作教育の分野で広まっていくことを願いたい。