大学院生作品 GRADUATE STUDENT WORKS
宝箱
加藤祐子
子供の頃、自然の中を見渡せば、すべてのものがきらきらしていました。
花、草、木の実、落ち葉。太陽の光を受けて輝くそれらを拾っては、自分の宝箱に大切にしまった記憶があります。
しかし、空に流れる雲のように、同じ時は一瞬しかありません。
宝物が朽ちていく過程を目にしながら、初めて、移り変わっていく悲しさと、目の前にある自然の儚さ、尊さを学びました。
その感覚を思い起こしながら、病院の患者さんやそのご家族に、温かな気持ちになってもらったり、コミュニケーションのきっかけになるような、季節のタペストリーを制作しました。
私達の暮らしの根本でもある自然。
子供からお年寄りまで、全ての人が自然に癒され、自然に対して親しみを抱くのは、誰もの心の中に、原風景としての自然の風景が残っているからではないでしょうか。
日本は国土の7割が森林で、豊かな自然の幸に恵まれています。
春は田植え、夏は緑と水の恵みを受け、秋は収穫し、冬は春に備えて静かに休む・・・。昔の人は、四季の中で自然と共存して生きてきました。
また、平安朝の人々は、何枚もの衣裳を重ね、そこに四季おりおりの自然を写そうとしました。
自然から生まれた日本の伝統色は、465色あるとも言われています。
日本人の持つ感覚や美意識は、全て自然から生まれ、自然を原点に育まれてきたのです。
全てのものが川の流れのように移り変わっていく無常観。
その概念があったからこそ、昔の人は四季の中で自然に対しても儚い視点で愛おしく、いつくしんで見ていたのだと思います。
そして、自然に対する愛情は、現代を生きる私達の中にも残りつづけています。
一人一人が自然の温もりを思い出しながら、宝物を見つけるような感覚で、この絵の前に立ってくれたら嬉しいです。
作品
作品